いしずえ

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宗教と政治

 ブッシュ新大統領の14人の「恒久的」閣僚では、従来になくアジア系や黒人、ヒスパニック系が重要ポストに配置されたが、ユダヤ系は一人も入っていない。クリントン政権では4人がユダヤ系だったのに比べると、はっきりと色合いが違う。今回の大統領選挙でも、民主党の副大統領候補は生粋のユダヤ系だった。民主党にはユダヤ系が付き、共和党にはキリスト教保守派が付いていると言われる所以である。しかしこういう宗教がらみの政治的構図は日本人にはわかりにくい。

 たまたまブッシュ政権発足の前後、インドネシアでは、味の素が販売していた食品に、豚の体内から抽出した酵素が使われているという疑惑が表面化して、大騒ぎになった。よく知られるようにイスラム教では豚は禁忌とされ、食してはならないからだが、これもまた宗教的タブーの薄い日本人には理解しにくい出来事だった。だがこれを迷信の類として軽く考えるなら、イスラム教国では政治的な反日運動を惹起しかねない。

 19世紀の半ば、インドで傭兵による大暴動が起った。インドを植民地にしていたイギリスに対する反乱であるが、事の起りは小銃の薬包に牛と豚の脂が塗ってあるという噂であった。薬包を噛み切るときに、その脂が口に入ってしまう。当時インドの宗教はヒンズー教イスラム教で、牛はヒンズー教徒にとって神聖な動物であり、豚はイスラム教徒にとって不浄な動物である。これはかれらの信仰を揺るがせてキリスト教に改宗させるためではないか、とインド人は思った。政治的な反英主義に宗教的自尊心が結びついたとき、大暴動は起ったのだ。

 国旗や国歌を尊ぶことを教えられていない日本人は、外国へ出掛けて行ってしばしば無用のトラブルを起す。相手の国旗や国歌に敬意を払わないのは侮辱にひとしいことを知らないからである。同様に、宗教が人間の集団的自我の根幹を成すことを知らぬ日本人は、なぜ政治と宗教を混同するのか、或いは宗教を政治に利用してはならぬ、などと世界のどこにも通用しない空論に耽る。宗教と国家について、戦後の日本人はほとんど真面目に考えたことがない。自分は何者なのかという問いに進撃に向き合ったことがないのである。

 平成13年3月1日発行  次代 國乃礎より

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