いしずえ

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第二章 思想の源流

 古代文化思想は、ギリシャ、印度、中国、ユダヤにしても戦乱若しくは社会混乱の時代に起こったものである。何れも紀元前六世紀(二六〇〇年)から前四世紀(二四〇〇年)にかけて、優れた思想家が輩出した時代であった。人類はこの時代に世界観人生観の探究に目醒めたのである。

 印度では、ウパニシャッドの哲学をはじめ、唯物論、宿命論、道徳否定論、懐疑論ジャイナ教バラモン教、仏教が現れた。

 ギリシャでは、ミレトス派をはじめ、ピタゴラスヘラクレイトス、エレア派、アナクサゴラス、ソクラテスデモクリトスプラトンアリストテレスが登場した。

 中国では孔子老子荘子墨子孟子荀子韓非子などの諸子が輩出している。

 ユダヤでは旧約聖書の作者等である。

 日本は古事記の創作者がそれである。

 最も旧い文化の創造物のエジプト、メソポタミア及び中央アジアは滅びその流れを後世に伝へ遺され何らかの形で生きていることは事実である。

 印度のガンジス河流域、ギリシャ半島を中心とする地中海域及び中国の黄河下流地域は、いずれもユーラシア大陸の緑辺地域(フリンジランド)である。同じ地域であっても五千年以前から都市文明のメソポタミア(ペルシア)やエジプトに比べれば後進地域である。おそらくこの文明の影響を受けたものと思われる。

 印度・ギリシャ・中国における後進文明国は精神文化を遂行する上において恵まれた絛件下にあった。生産力の上昇と共に都市国家は繁栄し、伝統に縛られぬ個人が創意をめぐらし實力の時代とな興ってはる。従来の伝統や習慣はたえず崩れる(無思想の集団生活は栄えては亡び、興っては滅ぶ)それは成長と発展の時代である。都市国家の連合が求められ、また一度成立した連合体も、そのままの形では維持することができない。より強力な広範囲の結合が求められ、統一的領土国家が要請されてくる。それは印度においてもギリシャにおいても中国においても、そういう過度期の混乱の時代であった。人々は新しい方途を求め世界と人生とに新しい設計図を求めた時代である。この要請に應へたのが印度に於いては仏教であり、ギリシャに於いてはヘレニズム思想であり、中国に於いては孔子による儒教である。

 思想家たちの頭に描かれた設計図は、大規模な実現の端緒を得たのであった。国家経綸の政治経済政策の文化理念として、また人民の生活の指針と規律として希望と満足とを与えたのであった。人類はこうして都市国家時代から民族領土国家の時代を迎えたのである。二千五百年前にアケメネス朝のペルシャ帝国が唯一であったが、二百年おくれた印度のマウリア帝国、ギリシャではアレクサンドロス以後のヘレニズム国家、中国では秦の漢帝国が成立した。

 そしてこれらの国家は相互に接触を深め、また周辺の民族を併合し、超民族的世界国家形成の道を歩んだのである。印度に於いては一世紀以降クシアーナ王朝及び四世紀以降グブタ王朝帝国、ヨーロッパに於いては前一世紀以降のローマ帝国、中国に於いては隋、唐帝国中央アジア・アラビアに於いてはダマスコのウヤイヤド、カリフ帝国、バクダットのアバシド・カリフ帝国の形成と展開等いづれも超民族的世界国家形成への道を歩み出したのである。

 この時代に印度では大乗仏教が成立し、中央アジアを経て中国の隋、唐時代に中国仏教を成立せしめそれが儒学に影響を与えて朱子学陽明学を生んだのである。ローマ帝国に於いてはキリスト教が成立し、やがてローマの国教となり、ローマの属州であったヨーロッパに伝えられたのである。仏教もキリスト教イスラム教も、いづれも普遍的な人類の普遍的國際宗教として形成されたものであり、前代までの知的探求の成果を摂取し、またそれ自信のうちに知的探求の営みを営んでいるのである。

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人類思想の歴史と未来