いしずえ

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第五章 近代思想

 二十世紀の現代、人類は国際社会が世界的規模において現実に実現されようとしている。これ迄に超民族的大帝国が二千五百年前にペルシャ帝国を初めとし、ギリシャ帝国、続いてローマ帝国、印度クシアナ及ゲプタ帝国、中国帝國、中央アジアのサラセン帝国、蒙古帝国など成立したが、全世界的なものまでには至らなかった。しかし、それが二十世紀末の現代に於て実現されようとしている。
 従来までの世界帝国は主として「武力権力財力」と法律制度の力をもって、外方より締めつける手段を用い統一を計って来た。この力の統治結束には限度がある。領土の拡大に伴って内部の結束が乱れるからである。然るに今日現実的に達成されつつある全世界的国際社会は、宗教や支配的権力武力財力ではなくて、物質文明の自然科学、機械、技術である。これを発明創造したものは、曾てローマ帝国の辺境の植民地であったヨーロッパである。この狭小な地域に十三世紀以降、新しい知性の動きが見られ、ルネサンスを経て全人類にその影響を及ぼし、地球世界は正に統一されようとしている。この新しい思想による世界と人生との設計図は、ギリシャ思想とキリスト教との結合からつくり出されたものである。それは恰も日本にとって中国思想の儒教と印度思想の仏教との結合によって生み出された近代日本と同じ意味をもっている。
 近代思想の発生は中世紀の間永く教会によって束縛されていた人間精神が解放され、人々はここに始めて周囲の自然や事物の本質を有りの侭に観察し認識することが可能となった。この人文主義の発展は教育の方面に多大の影響を及ぼし、大学において從来尊重されていた神学法学の研究の外数学、物理学が重視されるようになった。ようやく科学技術の発達を促す諸種の発明が行われ世態を一変させた。かくしてポーランドコペルニクス(一四七三)地動説、イギリス人ベーコン(一五六一)、フランスのデカルト等が現れ科学精神の二側面が大いに発展することとなった。

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