いしずえ

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第三章 古代思想

  ギリシャ思想

 紀元前六世紀(二六〇〇年前)のギリシャ都市国家は繁栄し、地中海の全域に亘ってギリシャ人の活動が展開されるに至った。古くからの家柄、門閥、格式が崩れ、実力能力あるものが現れ、実力本位の時代となっていた。ところが、その行過ぎは利己心の無制限の発揮となり、到るところで社会的害悪を生み出すようになってきていた。そこで多くの指導者、賢者が現れて世の指導に当たっていた。これらの賢者たちは「七賢人」と呼ばれる。その代表がアテネのソローン、ミレトスのタレースであるが晩年にピュタゴラスが現れた。その頃東方のペルシア帝国がにわかに強大となり、小アジアは攻略され、この地の中心部ミレトスも陥落した。ピュタゴラス小アジア沿岸のサモス島に生れ、南イタリアに赴き、そこで宗教ピュタゴラス教団を組織し指導した。

 ピュタゴラス
 彼はオルプェウスの宗教運動から霊感を受け、霊魂輪廻説に基き、厳しい戒律を定め禁欲生活を送った。この教団の特徴は音楽と数学の研究であった。それが霊魂にとって最上の浄めを意味した。ピュタゴラス教団において純粋数学の解明は神の名に於て与えられ、その解放が発見された時には、神前において感謝の儀式が行われたのであった。ここに純粋数学への道が開かれたわけである。

 また音楽は霊魂を浄めるが、音と音との調和は、弦の長さが2:1(オクターヴ)、3:2(五度)、4:3(四度)のような整数の比にあるとき成り立つ。音程理論において、音楽と数学とは結ばれる。宇宙をコスモスといったのはピュタゴラスである。宇宙は美しく秩序づけられた調和の組織であって数的比例に基づいている。これが天体の音楽の思想である。このように教団は宗教団体であると同時に、純粋数学や音程理論を研究する学術研究団体でもあった。更に新しく創始された禁欲的生活新條の故に、これがギリシャの新しい政治運動の中心団体ともなった。この教団は、民主主義運動団体との間に至るところで政争を巻き起こした。彼は民主主義から生れた個人主義をどうしたら社会共同体に結びあわせ、生活を簡素・強健にするかにあった。この流れからやがてソクラテスプラトン等が輩出したのである。

 ピュタゴラスによって哲学、数学、政治が大いに開かれ深められたのである。この間にあって前六世紀後半ペルシア帝国は東方のバビロニアを征服しエジプトをも攻略し、西はエーゲ海からアフガニスタン及び印度の国境まで、北はカスピ海からアジアのヤクサルテス河畔から南はアラビアに亘る強大な大帝国となった。かくて前五世紀の初めギリシャに軍を三度送り一度はアテネを攻略したがサラミス湾の海戦においてアテネの艦隊に撃破された。ギリシャの各都市国家は同盟を組織し、ペルシアの野望を挫折せしめた。以来アテネが中心となりペリクレスの指導の下に政治経済学問芸術を盛んにギリシャ文化の黄金時代を迎えた。アテネの文化特に民主制が普及するにつれ、やがて都市国家の枠を逸脱するような個人的利己主義や党派的権力主義を生み出した。また学者たちも互にその手腕を競いその教える学術も黒を白と言いくるめる詭弁が横行し利己主義と権力主義に奉仕する有効な手段となった。ギリシャ民族はここで強力な統一体制を作り上げなければならなかったにも拘らす、徒らに権力的支配体制を強化し同盟諸都市の隷属化を強制するのみで少しも実現されなかった。それは民主主義という多元的分裂のためであった。すべてのギリシャ人共通の願望は同盟の結果でありながら、それは殆んど不可能とも見得る難事であった。そうした状態のところにスパルタという強力な敵が現れペロポンネーソス戦争がおこり敗北するという結果となって没落への第一歩を踏み出したのである。

   (43 43' 23)

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