いしずえ

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『童心殘筆』より

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津浪



船は真一文字にそれに向って進んでゆく。

暫て船頭は其の屋根の棟を割って、其の首を曳き出した首の下にはまだ逞しい胴体も着いて居た。

職工が苦し紛れに天井を破って逃れようとしたのだが、首だけ出て、身体が出ないまゝ、流されたのである。

彼はまだ生きて居た。




ある小さな綿工場の一職工は其の晩夜業に疲れてぐっすり寝込んで居た。

変な気勢に驚いて眼を覚ますと、魂消たも魂消たも彼の枕許には怒濤が逆巻いて、其の眼口には容赦なく猛雨が亂下した。

一枚の畳は今や夜具にくるまったまゝの彼を載せて漂蕩して居るのである。