いしずえ

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『童心殘筆』より

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津浪



余り錯愕に彼は起き上る術も忘れた。

すると彼を載せた畳は暫く何處ともなく吹き流されてゐる中、どっと煽った疾風と共に、忽ち海岸の別荘の植込の間に投げこまれた。

それ助かれ!

この生命冥加の野郎めがッ、とでも風は怒號したか。



大通のある電柱の下には、母と子と四人が帯で身体を繫ぎ合せて死んで居た。

そして其の帯の端を仔犬が一疋確りと咬えたまゝ、此れも冷たくなって居た。



此れは私の懇意な遞信省の某官吏の話である。

熟睡を驚かした俄な津波の来襲に、彼は矢庭に身支度すると共に、母や弟を一刻も早く逃がそうと焦った。