勿論二三度激しく震盪を感じた後、彼等は脆くも気絶して了った。
ふと何かの拍子に息を吹き返した番頭は、闇中朧ろに人家を認めて、あらん限りの聲を絞って救を求めた。
暴風雨の中ながら、其の聲が耳に入ったとみえて、暫て二階から、「縄を下すぞ~捉れよ」と聲が聞えて、首の邊に何やら綱らしい物が觸れた。
彼は手早く棟木に縛した帯を解いて、其の綱に縋りついたが、忽ち傍らの主人の死骸を認めて、「もう一人死骸を上げて呉れ」と怒鳴った。
二階からはまた綱が降りた。彼はやうやうの思いで主人の縛を解いて、手當り次第其の兩足をしっかりと綱で結へた。
そうして彼と主人の死骸とは兎に角二階に引き上げられることが出来た。