いしずえ

『陽明学勉強会』 参加希望の方は kuninoishizuehonbu@yahoo.co.jp まで!!

『童心殘筆』より

イメージ 1

津浪



近所に居た元気な鳶職が、室の隅で濡れそぼちながらぶるぶる慄えて、それでも頓狂な聲を絞って語る。

「野郎如何したかな、餘り醉いやがるもんで、水だと言って引き摺り起したんだが、間誤つく中に箪笥が'002;りけえったんだ。野郎下敷になりやがって、引張っても引張っても如何にも出て来ねえ、其の中にこつらがやられ相になったもんだから、とうとう手を離しちゃった。可哀相な事をしたな。あゝしようがねえ……」

誰かゞ聲に和して獨り言の様に言い出した。

「分らねえものだぜ、そらつ!家が危ねえてんで、二階からみんなで屋根へ飛び出すと、其の途端に屋根がぐらぐらと傾いて、隣の薪の積み重ねの方へ憑っかゝっちゃったんだ。みんな夢中で薪の上へ飛び上ったところがお前、薪が流れ出したじゃねえか、もういけねえと思ってると、こんだ(今度)どっと風が来ると一緒に、薪がこちらの屋根に引っ懸っちゃったんさ。全く神助けってえんだなー此れが。」