其中に俄然として落ち来った棟木の為に、忽ち彼は其場に打倒された。
焦っても藻掻いても身体はぴりっとも動かない。
すると向うから一本の柱が自分の方に向って勢猛く突進して来た。
殺られたっと思った瞬間、彼の身体はひょいと浮んだ。
かねて水心ある彼は夢中に拔手を切って泳いで、やうやう命一つを逃れることが出来た。
考えて見ると自分の頭に當ると思った柱が、うまく自分を壓へて居た棟木に衝突したのである。
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彼等の何者よりも不思議な命を拾ったのは私の近所の湯屋の亭主であった。
其の湯は潮湯で一番海に近かった為め、真先に家を倒された。
亭主は番頭と一緒に身体を棟木に縛りつけると、運を天に任せて怒濤に翻弄されながら流された。