いしずえ

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『童心殘筆』より

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雲水



「巡査かな。誰何すると厄介だな。」と私は考えた。チラッ。正面の壁に光が射して復消えた。どうやらトンネルは曲ってゐるらしい。足音が近づいたので私は立とうとしたが急には足が痛くて立てない。思はず私はどっこいしょと口走った。トンネルがわんわんと低く反響した。丁度其時其人は曲り角を折れたらしい。私の聲に驚くまいことか、いきなり「ワンワン」と怒鳴った。ワンワンと實は反響がしたので、何と言ったのか私には分らない。刹那、ピューと音がしてバサリと私の笠が叩き落された。オッと叫んで私は思はず五六歩飛び下った。その時早く足音は一散に元来た方へ飛んで行った。「逃げたな」私は呟いた。何しろ笠は大切な借り物だ。あれを失ってはと私は先づその邊を探り廻った。細長い圓い筒が私の手に觸れた。はてな懐中電燈だぞと思って私は手探りに釦を押した。嬉しくもパッと四邊は照らされた。