いしずえ

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『童心殘筆』より

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雲水



一旦薄暗くなつた天地はこんどはほの白くなり始めた。何処からともなく糢糊たる白霧が四邊を罩める。其中に遙に鎌倉の人家の燈火がイルミネーションの様に見えて来た。

夢の國は次第に現の國に變つてゆく。空は空、山は山、松は松、野は野と分れ初めた。私達の意識も段々明瞭になつて来る。

途端、キキキ……と山松の梢に崩れる様な聲がした。

「雉子かな。」私は何思はず呟いた。
「馬鹿な、ひぐらしぢやないか。」
「なるほどさうだ。でも「ひぐらし」が夜明けに鳴くなんて變だね」

我ながら馬鹿馬鹿しさに思はず失笑(ふきだ)した。