やさしそうな婦人だと私は一目みて思つた。細い眼に柔和な光が漂うてゐる。もう四十近くでもあらうか。顔は美しくもないが、聲がいかにも澄んでゐる。「其邊まで御一緒に参りませう」と婦人は小刻みに私と竝んで歩いた。
「そうやつて御修業なさるんですか。」
「ハイ。」
「お寂しくはございませんの?」
「しかたが有りません。」
「デモ………」
「ハイ。」
「お寂しくはございませんの?」
「しかたが有りません。」
「デモ………」
婦人は何か言はうとして口を噤んだ。髪の香油が微に匂ふ。私は何とも言へぬ懐かしさを覚えた。暫らくして婦人は復た口を開いた。