いしずえ

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『童心殘筆』より

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雲水



心は自ら「無限」に憧憬れ、無礙自由を欣求(こんぐ)する。しかも自分は如何にも狹くろしい、執拗(しつこ)い、垢染いいでゐる、むづ痒い。

這(こ)の「我」と謂ふ瘡蓋をぼろゞと一思ひに掻きむしつて了いたい。これ程迄に自分を焦(じれ)つたがらす、正體の知れぬ悪性の腫物に、グサと小気味よくメスを刺して、有るだけの膿を絞り出しだい。それにも拘らず、如何しても痒い處に手が届かぬ、メスが振へぬ。堪らなくもどかしくつて焦つたい。自然は愛に溢れてゐるではないか。自分は愛に包まれてゐるではないか。なる程夫れには相違ない。然しながら、自分はしつとりとその自然の愛に融合することも出来ない。自分を取り巻く人の愛に安らかに眠ることも出来ない。到る處に「力」の淵はその凝然たる深碧を湛へてゐる。でも自分は飛びこんでその底から大なる生命の力を掬(く)んでくることが出来ない。