いしずえ

『陽明学勉強会』 参加希望の方は kuninoishizuehonbu@yahoo.co.jp まで!!

『童心殘筆』より

イメージ 1

雲水



その刹那私は何とも言へずヒタと合掌して了つた。十方諸佛の靑蓮の瞳と、無間地獄の魔王の瞳とが赫として一団の聖火となつて、身を焼く様に覚えたのである。私はいつまでもいつまでも凝然と坐つて居た。その夜私は山野を放浪してゐる雲水の夢を見た。雲水、行脚、放浪、覚めて私はとつおいつ考へた。若しそんなことをしてこの身を損じやしまいか。何だか体裁も悪い。気味も悪い。然しとにかく徹底して行脚放浪してみたい、その間に考へてみたいといふ衝動は如何しても止まなかつた。その中に夏休みが来た。この時私は一高の二年であつた。ところがふとした話の序から、或日一人の滑稽な友人が、そりや面白そうだから是非一つやらうと言ひだしたので、私もむらゝとやつて見たくなつて、とうゝ決行することにした。