いしずえ

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第四章 中世の思想

 中世のイスラム

 (イスラム教の特質

 世界三大宗教の一つであるイスラム教は、我々に何を教えているか。この宗教の創始者であるマホメットは、歴史上の明白な人物で、宗教家であると同時に政治家でもあり、軍人でもあった。中世アラビアに起こりヨーロッパ及びアジアに版図を拡げたサラセン文化の創設者でもある。この宗教の教典コーランは、キリスト教の聖書、仏教、ヒンズー教の教典などと異なり、後世の人々が創作したものでなく、開祖マホメットが自ら記したものである。
 マホメット教発生当時のアラビア社会の腐敗堕落は言語に絶するものがあった。マホメット教以前のアラビア地方には拝星教、太陽崇拝等各種の宗教があり、それが各地の部落ごとに存在して互いに対立していたのみでなく、偶像崇拝であったため、各種の迷信が盛んに行われ、信徒はこれを無条件に妄信して社会を堕落に導き、道徳は荒廃して、行くに任せていた。人々は互いに争い、力あるものは暴力をもって弱者を苦しめ、獣類のような生活を展開していた。これをこのまま捨ておくことは出来ない。神意に適(かな)った社会改革者としての予言者の出現を民衆は切望していた。この時マホメットが起って偶像崇拝を禁止し、宇宙創造の神を奉じて人々の道義を向上させ、精神的、経済的方面に努力して人心を安定させたのである。
 マホメット教すなわちイスラム教は、キスメットとムスリムの二つからなっている。イスラムとは平和、安穏、救済、表敬を意味し、キスメットとは神意を表わし、ムスリムは随順、信従を表わしている。イスラム教の神はアラーの神といい、唯一無二、無始無終、生まず、生まれない完全無欠の絶対神である。コーランでは「世界には唯一の神のみありて、神の外神はなく、マホメットはその予言者なり」また「アラーは唯一無二の神にして永遠の神なり何ものもアラーに似たるものなし」と規定している。信者達はこの唯一無二絶対の神アラーの偉大さ、全知、全能、全愛を信じ、この絶対神の中に融合することを理想としている。アラーは眼に見えないが、常に自己身内にあって人間を戒め導いている。アラーは絶対的存在である。予言者マホメットは神の天使ガブリエルから、アラーの教えを啓示される。予言者が教祖となってこれを信徒たちに伝える。彼等の日常生活の全てがこのアラーの教えに従って決せられるが、他宗に見るような一切の偶像(仏像、十字架)は認めず、一日五回の祈禱礼拝が行われる。
 宗教というものは人間を完成させるために(神の像に近づけるために)鍛練訓練を行うものである。イスラム教の修行「型」は次の四つになっている。
 一、祈禱礼拝一日五回(夜明け、正午、午後、日没、夜)場所仕事のいかんを問わず聖地メッカに向かって行う。二跪(にき)四拝、四跪八拝の方式で行なわれる。偶像のない彼等にとってはこの礼拝のみが神への忘却から救い得る唯一の道であるとされており、彼等は礼拝さえすれば、神は自己心内から離れ去ることがないと信じている。「祈禱は教えの柱にして天国の鍵なり」とコーランに規定している。この外毎週金曜日を集団礼拝日としている。
 二、喜捨、神は人間に対し自己実現の方法として力を出し、心を出し、親切を出し、誠を出し、犠牲、献身、責任等人のため世のために出すことを教える。その一作法として喜捨、賽銭、布施、和幣すなわち浄財を神に捧げることを教えている。喜捨は報恩、感謝、博愛、奉仕、奉公の印である。信徒は年収の三十分の一を神に捧げることになっている。これは失業救済、貧民施療、その他社会事業に使用されている。
 三、断食、九月一日から一カ月間日の出から日没までは一物も一滴の水も口にしない。日没後粗食を摂って体力を維持しながら、礼拝堂に参って斎戒沐浴し、メッカに向かって壮重、森厳な礼拝と祈禱を行う。これによって信仰を深め、克己心を養い、情欲を抑え、心身の清浄と健康をつくる。老人、病人以外は一人の例外なく全信者四億一斉に聖地に向って行うのである。
 四、巡礼、信者は一生に一度アラビアの聖地メッカに巡礼することになっている。巡礼は断食と同様に重要とされている行事で、これが終って帰ると「ハージ」といって郷里の有力者として尊敬される。巡礼には三つの条件が付いていて、⑴旅費および不在中家族の生活が立ってゆく資産を持っていること、⑵メッカまでの途中危険なきことの確認を得ること、⑶女は信頼出来る保護者同伴のこと。
 これらを実行するに当たって厳格に要求している二つの条件が規定されている。
 修行の前に、心身を清浄にすること。
 生活上の無駄、贅沢、華美を厳禁すること、肉食の低減、無駄遣いの禁止。

   (43 43' 23)

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