いしずえ

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『童心殘筆』より

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津浪



「丁度満月の大潮の夜だものな……」

母が手探りで蝋燭に火を點けた。室内が朦朧と明る。家財道具が室中に散亂して居る。我等は更に着物を重ねて、互に膝を摺り寄せた。

「近所の方は如何したでしょうね?」

「さー何にも聞こえないな。」

やがて各自は風雨の怒號に耳傾けながら、死の様な沈黙の裡に凝然と坐ることを続けた。




「アラ、何だろう。」母が不意に沈黙を破った。

「何が……」と反問すると同時に、なる程私の耳にも次の室に當って、雨戸を亂打する音が聞えた。「助け舟かな、」咄嗟に考えながら私は次の室に走って行った。