いしずえ

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『童心殘筆』より

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山水養性記



静かに身體を淨めてじーっと湯槽に沈むと、心持よく湯が溢れて、チョロチョロと流しから外庭の溝に落ちる音が旅に疲れた心をうっとりさせる。窓を明ける。山々が蒼然たる暮靄に包まれて何處かに淙々たる谷水の音が響く。そのまゝ眼を瞑り膝を抱へてうっとりとして居ると、微かに蟲の音が聞える。ぼんやり眼を開くと、前は小廣い萱原である。すぐ眼の前に大きな無花果の樹が立ってゐる。其の足許は一叢の躑躅で、その繁り重った枝葉の下を湯殿の長しを受けて小溝がちょろちょろと流れて居る。

× お流し申しませう。

不意に呼び掛られて振向くと例の戒本君である。