いしずえ

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『童心殘筆』より

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暁風残月の遊



冷や冷やと渡る夜風に消えなんとしては燃えつゝ、幾つかの急製燈籠が船を遠ざかる。余等はコップに爛飲しながら、船も蹌踉としてまた乳母が懐を出た。私は傍に二三人のうら若い女性が慎ましやかに坐して舷に凭って居るのを發見した。提灯の火影に朦朧と浮き出たら飾らなぬ姿は、この神秘な星光の下、夜の湖上にまた一種の夢幻的な感興を添えた。女の忌まわしいのは餘りに低い現實性を暴露する時に在る。

「舷を叩いて歌う」と思わず微吟した時、舳の方に突然尺八の音が聞えた。眼廂して見やると、それは思いがけぬ岩下君~病の為に故郷に歸臥して居る若き陸軍中尉であった。彼は舷に腰かけて湖上に目を落しながら、沈痛な態度で頻りに歌口を濕して居る。