いしずえ

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第四章 中世の思想

 神意に絶対服従

 何がマホメット教をしてかくまで成功せしめたか、何處にその力が伏在しておるか、というならば、宗教信仰、特に唯一神の観念に基く世界観による。この宗教は神意と服従の二つに見ることができる。この世界は神の世界で、神の主宰する世界における人間の唯一絶対の行為最高の義務は服従であるという動かすことのできぬ人生観、この二つの性格がマホメット教を偉大ならしめた主なる理由である。
 マホメットは「一神に服従せよ」と。神は善きも悪きも万事を予定計画せる久遠の存在である。神は、その意(おも)う処を人に命ずる。何人も、その命令を逃避することは出来ぬ。神意(キスメット)はマホメット教徒にとっては絶対命令であり、万事を決定する言葉である。彼等は抵抗することも批判することも逃遁することも出来ない。呟くことさえ出来ない。躊躇することさえ許されない。従容として如何なる難事もを敢て引受け行うのである。水火の難も意に介しない。戦場の死も恐怖するに足らないのである。
 神意に対する絶対服従マホメット教徒をして驚嘆に価すべき大功業をなさしめ、大征服に成功せしめた原動力である。マホメット教徒が、最も大きな威力を発揮したのは、アラーと叫びつつ兵器を提げて、戦場に立った時であった。彼らは戦場において選ぶところは、勝利か死か、それより外には何物もない。神意によって死することは、彼らの最も熱願するところであった。彼らが戦場において、偉大なる行動、超人的行為を行うのはこれがためであった。

   (43 43' 23)

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