いしずえ

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『童心殘筆』より

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山水養性記



四五丁行くと、だらだらと下り坂に為って、却下の渓流から吹き上げる涼風にさやさやと木々の葉が裏返る。

下り盡した所に一宇地蔵堂が建って居て、大慈大悲の顏をした地蔵尊が、誰の供えたものか、かちかちの小餅をじっと眺めて居られた。

道は左に折れてまた次第に登る。

日の加減で、渓を隔てた向うの峰の色が、すうと暗くなる。どちらを向いても山である。

少し天気が重苦しくなった。

正面の峰の一つ松の梢に、いかにも雷を封じたような雲の峰が聳えて居る。

雲を破ってまた太陽が赫っと光線を投げる。

途端にじーっと油蝉が唸り出した。