蟬の聲に膏汗を絞られて爪先上りに八丁の狭い石ころ路を上ると、右頭上に迫る絶壁が大きくカーブして、鼻を廻るとやがて石橋に出遭う。
帽子を取る。
颯と一陣の青嵐。
それを融かして渓流が淙々として麓に走る。
橋畔の石に腰かけて、上流の方を見渡す。
途端に眼の前につくねてあった柴の大束がゆらゆらと動き出した。
おやと思うと、ぐいと左右に動いて、柴の大束が正に二束、其間から息杖突いた逞しい老爺がのっそりと一歩を踏み出した。
「ヒャァー」老爺は息杖ついた不自由な手で鉢巻をかなぐり取って和尚に挨拶した。
そして私の方にも親しい目禮を送って、「お客様でがすか。」ゆらゆらと柴の大束は絶壁に沿って下りてゆく。