いしずえ

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『童心殘筆』より

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暁風残月の遊



八月五日九時過ぎ王子から信越線に乗る。軽井沢あたりへ行くのであらう、澤山な男女が雜然として車中に真夏の旅らしい無状を擅にして居る。男たちは皆羽織や上衣を脱いで、紙巻のアイスクリームを啜ったり、雜誌の創作を思い出した様に拾い読んでは、またしても煙草の煙をふかす。誰も彼も投げ出した脛のやり場に困ると云った様である。まして流席に男ほどだらしなく振舞へない女たちは、僅に襟をすかしたり、帯をゆるめたり、着く驛々で、アイスクリームや氷菓子を貪っては、時々偸む様に懐中から鏡を出して小鼻の傍などを拭う。子連の夫婦はきまってその小娘等に熱帯の土人の腰巻を少し上下に引き伸ばした程の所謂洋装をさせてある。夏の車中程「人間という動物」の感を深くさせる光景はたんとあるまい。