いしずえ

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『童心殘筆』より

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暁風残月の遊



けれどもこの娘は、いま女王の如く華やかに誇らしく振舞って居るが、この老婦人程の年配になった暁は、恐らく忌まわしい老婆となるに相違ない。この娘がサンドウィッチを食べて了った時、汽車は軽井沢に着いた。そこで老夫婦は下車し娘は一段気取った挨拶を交して、やがて汽車の化粧室へ這入った。次の追分驛の構内を汽車が離れた時、私は車窓から彼女が軽快な足どりで日傘をくるくる肩の上で廻しながら道行く姿を見送った。



小諸で下車した私は田中君に迎えられ佐久鐵道に乗り換えた。佐久の野を幾驛か走る間に、車中に懐かしい道友の顏が一人二人宛殖えて往った。天狗岩の上に白百合の黄昏れて、筑摩の流れが暮風に悲しむ頃、汽車は小諸に著いた。それから自動車で水瘦せて石多き筑摩川に沿う山道を松原に向った。