(イ)王陽明の五溺
王子の一生は57年であるが、前半生は迷うて過ごしている。其の間の迷いを五溺と云う、其れは①任侠②騎射③辞章④神仙⑤仏教である。
先ず①任侠は男立ての事で、日本で言えば幡隨院長兵衛という格である。謂る「弱きを助け強きをひしぐ」という犠牲的行動である。
②騎射は即ち軍人生活である。王子は14才から弓術、馬術を稽古して、四方を経略する志があったと伝えられている。
③辞章は詩文章を立派に作る事である。文章は上達したが途中で詩人・文人は第一等の徳業を成す者にあらず、と言って捨てた。
④神仙は謂る道教である。長生不死(不老長寿)を得て仙人に成ろうと何等益あらん、と手を引いた。
⑤仏教は出家という処に心が落着かない。即ち仏教には人を治める所の政の活用が欠けていると見た。どうしても無・空に陥り非現実的だ、と見倣したのである。
以上を王陽明の五溺と言う。