いしずえ

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『童心殘筆』より

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温泉行

年老いた両親をこんなところへつれて来たいもんだ~ふと考えた~そうだもう十年というもの親に伴うて歩いたことがない。

子供は如何しとるかな。

先刻汽車で見た子と丁度同じ年頃だが、今頃は母に抱かれて眠って居るだろう。

あれを此処へつれて来てやったらどんな顔をするだろう。

俺もなかなか子煩悩だと考える。

室に還っても何だか獨りでは風情が無い。

左様二十を二つ三つ越した品の好くて古典的な慎み深い佳人が右手を畳について、しとやかに左の手(右手は穢るとされる)で濡れたタオルを取って呉れるとする。

さて綠玉を溶かした様な薄茶を一服、渇した喉をうるおして静かに佳人に對する。