いしずえ

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『童心殘筆』より

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温泉行

そうあろう母親は母親でいま頃は首を長くし幼い子が父親にむずかってゐはしないかなどゝ心配して待ってゐるだろう。

「ものいはぬ四方のけだものすらだにもあはれなるかなや親の子を思う」。

私はそっと涙を拭った。

一時間ほどすると汽車は鹽尻についた。

その紳士は寝ぼける子供を抱いてそそくさとプラットフォームに降りた。

窓がらすを透して見ると果して段階の際に母親が待ってゐた。

やがて子供は手をひろげて母親の胸にとびついた。

私は何故ともなくほっとした。