いしずえ

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『童心殘筆』より

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温泉行

都に住む者は確かに時々其の風塵から逃れて雲を仰ぎ森を眺めねばならない。

何百萬という群衆に混じって居るだけで、自分の明徳が灰色にぼやける。

その上に狂の様な自動車や泥鰌のごった返すにも似た電車の混雜、魂の荒んだ人間、化物の様な形の女、詐欺恐喝強竊盗心中駈落萬引堕胎滿載の新聞と一緒に暮さねばならないのであるから、何となくひとりでに病まざるを得ない。

私などは読書子という最も静かな身分の者であるが、それでも獣めく魂をもった僞稱志士が「社會改造論」を吼えに来たり、喪家の犬然たる意地も張りもない先生が、「道徳」の歎聲を洩らしに来る。

それだけならば兎も角講演會とか懇親會とは發起人會とか評議員會とかよくよく時間を浪費したがる會が多い。