火事には我等はそう「滅び」と謂う様な世の相を聯想しないが、津浪の方がまざまざ人間最後の悲劇を味識せしめられる様な気がする。
然しながら此れは實に得難い経験である。
いくら遭いたくても遭うことの出来ない経験である。
この津浪は私に明にそれと意識は出来ないが、非常に多くの何物かを與へて呉れた様に思われてならない。
そして今度何かの契機に觸れて、例えば水雷の夫れの様に、大なる力が爆発するに違いない様な心地がする。
たてこんだ家並が飛ぶ様に去り、段々野趣が開けるにつれて不思議に諦めの様なおちつきを覚える。