傍らから女が慄へ聲で訊ねるともなくきいた。
「隣りへ来てらっした日本橋の御隠居さんは如何したでしょうね」
「さ何しろ身體が利かねえんだから仕様がねえ。」
「因果ですね眞實に、月島までわざわざ養生に来て、津浪に遭ふなんて。」
「死にゝ来たようなものかね。」
妹がそっと私の袖を引いて告げた。
「居ますよ。次の間に」
「何が、」
「あのね、そのおじいさんの附添の女の人が、癪を起して苦しんで居るんですよ。御隠居さんが、御隠居さんがって、そればかり口走って居ますの、可愛そうですわね。」