いしずえ

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『童心殘筆』より

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雲水



崖に沿うて海を見ながら歩んでゆくと脚下の浜辺に小さな漁村がある。燈火がちらほら洩れる。暖く人は眠るのだと涙ぐましくなった。向うの坂から老婆が元気よく降りて来る。そして擦れちがふ折に笠の中を窺く様にした。

漁村には珍しく小奇麗な身なりのふくよかな老婆であった。私が二三歩行き過ぎると、「あの、もしもし」と呼び止めた。呼び止められて私は静に振り返った。すると老婆は懐中から何やら取り出したが、やがて私の手に白銅一枚と銀貨四枚とを渡して、「どうかお先々でお賽銭にお願い致します」と言った。

私は敬虔な気分で合掌して受け取った。「御勿体なうござります。」老婆は幾重にも腰を屈めてお念佛を唱えた。私はしばらく聖者の様な気分で歩いた。私はズーゾーの詩筆を思い出す。

「あなたは何處から来られました?」