いしずえ

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『童心殘筆』より

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雲水



正午前復た二人は笠を眼深に冠つて片瀬街道をテクテク歩んだ。まだ朝飯も食つて居ないのである。強烈な太陽は釜ゆでになるかと思ふ程暑苦しく直射する。笠の中の空気は深くてよく流通せぬ為にむつと臭い。フラフラと二人は行逢坂までやつて来た。龍口寺へも寄つたが、もはや日蓮上人の事すら考へる餘裕がなかつた。

暫く行くと路傍に一軒の茶店が有つて御晝食所と書いて有つた。二人は崩れる様に茶店に腰を下した。三十五六の女房が揉手をしながら慇懃に出迎へた。

「飯を出して下さい。」友人は怒鳴つた。
「畏りました。お生懀何もございません。お魚は召食らないでございませうね。」
「いや、いや、構はん。」友人は手を振つた。
「お魚も今日は鰯しか無いんですよ。」
「鰯でも好いよ。ね、おい。」