いしずえ

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『童心殘筆』より

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雲水

二 

色々監察しようと考へて居たのに、不思議に一物も念頭に浮かんで来ない、心は空々寂々である。二人は復た無言でひたすら歩いた。暫らくしてふと気が付くと急に山が迫つてゐた。鎌倉に近づいたのである。脛が大分痛くなつて来る。急にあたりがスウと薄暗くなつた。オヤ、思はず二人は顔を視合せた。月が落ちるんだと殆ど同時に復た言ひ合つた。

ホー、ホーと遠くで梟が鳴いてゐる。底の抜けた様な心細い然し落月にふさはしい幽玄な気分を誘ふ。
Save that, from yonder jvy-mantled tower,  古塔藤蘿外
The moping owl does to the moon complain  幽梟喚月啼
Of such as, wandering near her secret bower  聲々頻似訴
Molest her ancient solitary reign.  祕境俗人迷
と云ふグレーの名句が如何にも眞實だと思つた。