いしずえ

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『東洋倫理概論』より

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経済的に恵まれていることが、若者の尊い人間完成に役立つものではない

若人が親のおかげで経済的に恵まれることは、決して唯物史観を謬(あやま)って軽々しく個人的生活に援用する世の社会主義者的思想の臆断(おくだん)するように人間の尊い完成に役立つものではない。それは往々逆に人間を動物的堕落に陥(おとし)れ易いばかりでなく、抑々貧苦を知らぬことは人間の深刻な情意の健闘力を萎靡(いび)させ、人格の線を細くし、才幹をふやけさしてしまう。

貧苦は却って人間の骨力を養い、人間をして動物的な苦しさに堪えかねて真の精神的な境地を渇求し邁往(まいおう)せしめる。故に孟子も、「天の将(まさ)に大任を是の人に降さんとするや、必ず先づ其の心志を苦しめ、其の筋骨を労(ろう)し、その体膚(たいふ)を饑(う)えしめ、其の身を空乏(くうぼう)にし、行には其の為(な)す所を払乱(ふつらん)す。心を動かし、性を忍び、其の能くせざる所を会益する所以なり」と云って居る。経済的恩恵は道徳的教育が根本になって居って始めて能く其の子を啓沃(けいよく)する。