いしずえ

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永遠の道 第一巻春雪の巻

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 「傅式説だよ」

 戸松の声に町の方をふりかえると、物売りの間をぬって傅式説夫妻が船つき場に向って歩いてくる。

 向こうでもわたくし達の姿をみとめると、軽く会釈をし、一そうの小船に乗りこんで向きあってすわった。

 夫人のにっこりとほほえんだ笑顔をのせたまま船はゆっくりと湖心に向ってすべっていった。

 一日の仕事を終えて、湖上に涼をもとめる睦まじい夫妻にわたくしは中国的自由と風雅な遊楽の姿を見たような気がした。

 気候、風土にめぐまれた江南の地は、昔から自由思想の旺盛なところで、人々は儒教的土壌の上に、さまざまな文化の花を咲かせてきた。

 それは深い伝統を根とした自由であったから、あくまでも中国的で大らかで尊大であった。彼らは夜通し湖上に或いは江上に、酒をくみかわしつつ或時は詩想にふけり、或時は歌弦に楽しんだのである。

 殊に杭州は水明の地である。人々は夜な夜な湖上にあそび、苦しみや悩みからのがれて、自然の懐に人生をたくしたことであろう。

 傅式説夫妻の船を暫らく見送ってから、やがてわたくし達も小舟をやとい、湖水を西へ西へと渡っていった。