いしずえ

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「自衛隊は衣食住がタダだからお金が貯まる」はウソだった!?

◆「自衛隊ができない20のこと 15」

自衛隊は衣食住がタダだから、給料はイマイチでもその分考えると実入りはいいよ」。隊員募集の時によく使われるというこの言葉、どこかで聞いたことありませんか? 今回は「本当に衣食住はタダなのか」について、検証してみました。

自衛隊の給料(俸給)の仕組みがどんなふうにできたのかがわかる国会質問記録(昭和45年~48年のもの)が残っています。昭和45年064国会の記録では、公安(二)職(検察庁公安調査庁,少年院,海上保安庁等に勤務する職員)の俸給に超過勤務手当相当額21.5時間分を先に加算して、地域手当を入れ、そこから食費と医療費と営舎経費を削って作られたのが自衛官の給料の元となる俸給表であると回答されています。

要約すると自衛官の俸給は「(加算分)公安(二)職の俸給に超過勤務相当額を加算、地域手当を加算」「(減額分)食費、医療費、営舎経費を給料から減額」という前提で作られているので、自衛官の食費や医療費等はタダではないことになります。つまり、予め天引きされているということです。

他の国家公務員の公安職などと比べて自衛官の給料が安いのは、給料の素案を考えた段階で、すでに食費、住居と営内経費(電気代や消耗品)及び医療費は減額された形で俸給に反映されているからです。「トイレットペーパー代も隊員持ちなのだが、それは営内経費を取られているのだから国で負担してやれないのか」という当時の質問が記録に残っています。40年以上前に提起されていたこんなにも些細な問題が、平成になってもなお是正されていないのが現実です。

俸給表が固定し、その成立の経緯を知らない人も多くなったために、さも自衛官の食費や住居費が無料であるかのように言われ続けているのですが、前述のとおり最初に給料から天引きされているに等しいのでこの表現は正しくありません。

「糧食費は100%本人負担――本人の好みにかかわらず決まり切ったものを食わしておいて、全部本人の負担で引くというのはひどいじゃないですか」

当時、質問に立った加藤陽三議員はこう言っていますが、私もそう思うのです。なぜ他の公安職と比べて給料が安いのかというと、最初からいろいろ引かれているからだということは知っておくべきです。衣食住のうち、まず「食・住」はタダではないことがおわかりいただけたと思います。

さらに「衣」です。これも全部国から支給されると考えている人が多いと思いますが、確かに官品と呼ばれる一式は支給されます。しかし、洗い替え分については隊員の自腹で買わなければならないのです。

東日本大震災災害派遣後、泥水の中で必死の救助活動をしたために、陸上自衛隊は迷彩服の在庫を使い果たしました。しかし、自衛隊には余分の在庫などもてる予算がありません。在庫がないなら買えばいいじゃないかと思いますが、予算がないので買えません。その当時は、新入隊員でも中古のもので我慢してもらっていました。震災から時間が経ち、少しはマシになったとは思いますが、戦場で迷彩服が泥だらけになったり破れたりする事態になった時、自衛隊は軍として同じ軍服を常にそろえることができるのでしょうか? 本当に心配です。「衣」も十分じゃないのです。

演習場などで使うマガジンポーチなどは隊員が自腹で買わなければ支給は乏しいようですし、制服の名札、名刺などもすべて自腹です。本来国が出すべきものなのに、国家公務員の中でも、経費を事前に差っ引かれ、給与水準を低くされている自衛官が負担するのはひどい話です。それで「衣」が無料と言えるのでしょうか?

では、さらに日本の自衛隊の「住」話です。陸上自衛隊を中心に、曹士クラスの若い自衛官の多くは結婚していなければ営内(駐屯地内・基地内)で集団生活することを義務付けられています。プライベートな空間もロッカーくらいしかありません。「税金を使っての仕事時間以外の暖房使用は許せない」とのことで、営内の暖房のボイラーは夜には消され、震えて眠ることが多いと聞いています。

これもまた自衛隊の仕事が敬遠される原因ですが、10年前くらいから公務員バッシングが起こり「税金でテレビや冷蔵庫を使うなんてけしからん!」との訴えを受けて、会計検査院がテレビや冷蔵庫を使った隊員から電気代を徴収するようになりました。

でも、もう一度突っ込みますが、営内経費は給料表を作るときに事前に天引きされていたはずです。その上で、さらに自衛官のポケットから徴収するのですよ。しかも、「夜は仕事をしていないから暖房を止める」というのです。これは鬼畜の所業です。会計検査院が隊員個人から搾取した電気代は、国庫に納入されます。政治にものを言えぬ自衛官からの搾取。俸給表を作る段階で差っ引き、さらに毎月、電気代を二重取りするなんて、さすがにヒドすぎます。怒っていいと思います。自衛隊の給与体系がどんなふうに作られたか考えず、政治に文句を言えない自衛官から何度も搾取する会計検査院って、いったい何を考えているのでしょうか?

この昭和45年の国会記録の文末に、市ヶ谷記念館での三島由紀夫自害事件について報告があります。自衛官に一斉蜂起を叫んだあの当時、国会では「自衛官から営内経費は先に取っているのだから、トイレットペーパー代くらいは国が払ったらどうか」という議論があったわけです。「まさかこれがあの事件の原因?」と妄想したくなります。そんなはずはありませんが、なんだかなーと思います。

さて、情けない話ばかりでは気分が落ち込むので、最後にゴージャスなアメリカ軍のことを話しておきます。米軍人や軍属が基地の外に住む際、軍から受け取る住宅手当は沖縄の場合で月額16万~29万円、十分家族で余裕をもって住める額です。こんな住宅費の手当が可能なのは我が国が支払う思いやり予算があるからですが、軍に対して尊敬の念をもつなら、まず我が自衛隊からなんですが、会計検査院が隊員から冷蔵庫やテレビでの電気代を徴収していることを米軍が知ったら、そのみみっちいドケチっぷりに失笑されてしまいそうです。

小笠原理恵

国防鬼女ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰