いしずえ

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永遠の道 第一巻春雪の巻

 島根県石見地方の中程にある太田市は、戦後近村を合併して大きな都市になったが、戦前は一握り程の小さな町であった。わたくしの郷里はこの太田市に併呑された村の一つで、日本梅にのぞむ半農半漁の貧しい土地であった。
 海に面した半分の村民は漁業にたずさわり、奥地の方には農民が住んでいた。
 田地の大部分は少数の有力者に握られていたから農民は主として小作人であった。漁師も個人営業出来る者は半数で、後の半数は人の持船に寄生したり、地引網の持主にかかえられたりしていた。したがって農民と漁師をおさえんとする者は土地と船とを持たねばならなかった。
 わたくしの家は古くからの地主であったが、祖父の代に三統の地引網を買い取った。三十人ほどの漁師をかかえ、その中の最も思慮深い者三人をえらんで、一切の世話をさせていたようである。父は幼年の頃から虚弱であったため、大切にされすぎて家業にうとく、若い頃から専ら村政に力をそそいでいた。農民からも漁師からも、圧倒的な支持があったから、長い間村長をつづけ、わたくしの子供の頃は家にいることが殆どなかった。
 力ある者によりかかり、隷従的な生き方をしていた漁民も、大正の末期から、その二、三男がしきりに朝鮮沿岸や北九州地方に出かせぎに行くようになると、色々の知識や多少の資金も得て来てどんどん機械船を建造し、漁港は一変して活気づいてきた。
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