いしずえ

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第三章 古代思想

  ソクラテス

 ペロポンネーソス戦争に三度従軍し、よきアテネ市民としての義務を果している。この戦争に於て彼はあらゆる困難に耐え、最も勇敢に戦い最高の勇士として賞讃を受けた。彼は当時のアテネで学び得る知識を吸収した。当時の自然学に通じピュタゴラス派の人々と交友があり、ソフィスト学者等とも親しかった。宗教(オルプエウス)にも関心を有つ、特に霊魂観に強い感銘を受けた。且つ神霊者でもあった。

また時折忘我脱魂の深い瞑想に陥る特異の性格の人でもあった。敬虔にして謙譲であったソクラテスは神の託宣に驚き、当時賢者として評判の高い人々を訪ね問答を試みたが、賢者たちは問い詰められ、返答に詰まり、真実の知を持っているわけではないこと、また無知であることを自覚していないことを知った。

ソクラテスは、自らが無知であることをよく知っており、この点が神託で最高の賢者であるといわれたのである。以来彼は神意の命ずるまま人々の無知を暴露し、真実の知恵を愛し求めるよう人々を誘うことを使命とするに至った。ソクラテスは知者と愛知者(哲人哲学者)を区別した。当代の知識は真実の知識ではない。これらの知識は個人の栄達や富貴であり国家の経済的繁栄や軍事的強盛であって、それは単に個人のもの国家のものであるに過ぎない。

而し真実の知識は個人そのもの国家そのものが真によくあることを目指すものでなければならない。財産や栄誉や権勢のことを思うことなく、むしろ知恵と心理を愛し求め、魂をできるだけ浄らかにすることを、配慮しなければならぬ。個人及国家の富貴及び幸福は徳(アレテー)から生ずるものである。アレテーとは、すべて、ものがその固有の働きを、よく果す卓越さである。

 霊魂も固有の働きを持っている。その働きを美事に果すことによって、霊魂は幸福であることができる。霊魂の固有の働きは、生きることである。霊魂が、よくあるようにとは、よく生きるように、ということである。よく生きるとは美しく生きるということである。それでは美しいとか正しいとか、というのは何か。よさとは何か。これを知るのが知恵(ソフィア)であり、こういう知恵を愛し求めることが、哲学(フィロソフィア)である。

 ソクラテスの言行は、腐敗堕落していたアテネの政治に対する鋭い批判であったため、前三九九年告発され死刑に処せられた。脱獄することもできたし、友人もそれを勧めたが彼は国法に従って死ぬ方が国法を犯して恥を忍んで生きるよりも死ぬ方が優っているといって法に從い死についたのである。

   (43 43' 23)