福岡県知事安場保和(先祖は大石内蔵助の介錯)という男は、知事にしておくには惜しい程の豪快な男であった。
或る時、伊藤博文が長州へ来たので、一同下関で舟遊びをして歓迎の宴をした。
宴の最中に安場がフラフラ立ち上がると舷で小便を始めた。
そのしぶきが、博文の顔に掛ったので、博文はマユをしかめて「人の風上でやる奴があるか」と言った。
しかし安場はカラカラと笑って「人が放尿しとるのに風下でボンヤリしとる奴があるか」とやり返した。
後で頭山は「あれが無位無官の男ぢゃったら、偉い事でも何でもない。
知事という地位にあって総理大臣を相手に、あれ丈の事を言えるのが、安場の偉いところぢゃ。
あの頃はそういう豪傑がゴロゴロいたものだ」と。
平成22年4月1日 〝いしずえ〟頭山満翁の人物像より