西郷従道が海軍大臣の時、海軍拡張問題が議会に八釜しかった事があった。
「何故にそえ程の費用が要るか、軍艦は何の働きを成しつゝあるか」といふような質問をして頻りに海軍大臣の答弁を求めた。
その時従道は壇上に立って丁寧に議員にお辞儀をして「軍艦は鉄で造ってあります、大砲は打ちます」と、たった二言云って、又丁寧にお辞儀をして壇を下りた。
かなえの沸くやう騒ぎ立てていた議会も海軍大臣のこの答弁に呆れ返ったといふ。
かういふ話はいくらもある。
或る内務大臣の時、北海道長官が、内務省の処置について、非常に怒って、内務事官に喰ってかかり怒鳴り付けている。
次官は答弁出来ずに困っていると、従道がソーッと出て来て煙草の火のついているのを其の長官の頬ぺたにギュッと押し付けた、長官は乞驚して後を見ると、大臣がニターッと笑って立っている。
「あんた余り喋ると又付けます」と言った。
長官はそれきり不平を述べなかったそうぢゃ。
平成22年1月1日 〝いしずえ〟頭山満翁の人物像より